攻撃を受け、何処とも知れぬ中空に吹き飛ばされた瞬間、 ふわり、と不安定になる身体とは裏腹に、意識が鮮明になっていくのを、セレナは感じた。 空間と呼ぶ事すら出来ないような概念の中を落下し、 彼女はベッドに身体を叩き付けた。 やわらかで、確実な衝撃に思わず目が開く。 そこには見慣れた自分の部屋の天井があった。 視線を下ろすと、窓からは星空が見えた。 静かな夜だった。もっとも、ここはいつも夜なのだが。 「……夢?」 思わず呟いた言葉を、彼女はまず否定する。 夢にしては、あまりにも現実的な夢だった。 仮にそういう類の夢だったとしても、思い返さねばならない、と感じる程に。 何故自分は、吹き飛ばされたのだろうか。 攻撃を受けたから。誰に?誰かは分からない。 私は船に乗っていた。正しくは船じゃないが、船と形容できる乗り物。 船が突然壊され、乗り込んできた人がいた。 女性だった。朱と白の衣装に身を包んだ女――昔の書物では、巫女さんと呼ばれる人々が着ていた衣装を着ていた女。 何のために、攻撃してきたのか?そうだ、私は誰かを守ろうとしていたんだ。女は誰かを襲おうとした。 誰を?船には、彼女を除いて四人が乗っていた。四人、だ。 まずは私。それと、私の友達が二人。これで三人。 あと一人――あと一人、誰か、乗っていたはず。 それは誰……、誰なのか。…………。 しばらくの間、彼女は考え込んだ。 それでも、答えが出ることはなかった。 ぼんやりとした輪郭が見えるだけで、その姿がくっきりと浮かぶ事はなかった。 「夢、ではなくて並行世界を『視た』のかもしれないな」 「その説は面白いとは思うんだけど、並行世界って実在するのかしら?」 セレナの住む塔の南に存在する都(かつて存在した国の中心地であったことから央都と呼ばれている)、 その都で一番大きな、央都立図書館の閲覧室の一角で、セレナは友人のサキと話をしていた。 「並行世界は実在する。昔の私が導き出した結論だ」 「今となっては当人ですら読めない論文がその証拠……ねえ」 サキ=ファミリア。 『マーガレット』の出現がきっかけで並行世界の存在を直感的に感じ取り、自分の感情を封印することでイドラを排し、並行世界の研究に没頭した魔女だ。 結果、並行世界の実在は実証された……のだが、その内容はあまりに複雑で、完全に理解出来るのは『感情を封印していた頃のサキ』ただ一人だけである。 それでも、研究成果の一部は利用できる形で記述されている。 「ところで、また開催されるようだ」 「何が」 「アマリリス・ザ・インサニティ」 例えば、セレナ達は並行世界を移動して、別の世界で行われているイベントに参加することが出来る。 「参加するんだろう?」 「まあ、出ておきたいわね。一応前回優勝者だし」 「〆切は向こうの日付で明日、だそうだ。何か考えてるのか?」 「そういえば何も考えてかった……」